〜俯く人〜



真駒内川での話です。

その日は土曜日。

自分はカジカとドジョウを網で獲っていました。

昼下がり、

釣り人と何人か挨拶する程度で土手を歩く通行人は疎らでした。

深いところの魚を石を投げ浅瀬へと導き、網で待ち構えて獲る。

何時間やった頃でしょうか。

ふと、屈めていた腰をイタイイタイと言いながらゆっくりと伸ばしたときです。


女のひと。


自分の1、2メートル先の川岸に女性が立っていました。

短髪の30代、布で包んだ赤ちゃんを抱いて、

足元を見て笑みを浮かべていました。

赤ちゃんは顔は見えないのですが直感で男の子だと思いました。

服装は・・・すいません。

思い出せません。

とにかく記憶がないのです。


始めは嫌だなぁって感じました。

知らない人が俯いて突っ立って微笑んでれば誰でも気味悪いでしょ。

気まずくて、どもっ!

って挨拶しても相変わらず俯いたまま。

感じ悪いなあ。


そう思い水面に視線を移し、

2・3歩後ろに下がり、また前を見ました。


−あれ、いない−


その間、わずかほんの数秒

土手を上がるにも草むらに入るにもさすがに時間はかかります。

そんな、数秒で出来るはずがなく、

不思議に思い、土手に上がり辺りを探しました。

やはり、どこにも居ない。


だいたい、近づいた時点で

川砂利の上や草むら、何かしら物音がする筈なのに。